中国と日本の税務代理を考察する
東京税理士会顧問・訪中団名誉団長 波多野 重雄
1.中国注冊税務師資格制度
中国の税務代理は新興の社会の仲介サービス業として、社会主義市場経済体制の樹立と税収徴収の管理制度の改革に従って 次第に発生し発展してきたところであり、現在ある程度の規模に達している。
中国の税務代理は80年代中期に始まり、税収徴収の管理体制の改革に適応するため、 当時一部の地区の税務機関は国際的な慣行を参考としながら、当地の実際の情況に鑑みて税務代理について試行錯誤を行った。
1992年9月、第7回全国人民代表大会常務委員会第27回の会議で採決された「中華人民共和国国税徴収管理法」によって、 「納税人、納税義務者は税務に関することを税務代理人に委託することができる」と規定した。 これは中国において税務代理の法的地位が初めて法律的形式によって確立されたのであり、税務代理業が中国発展に寄与する法律的根拠を作り上げた。 1994年9月、国家税務総局は「中華人民共和国税収徴収管理法」及びその実施細則によって 「税務代理試行規則」(という簡易法)を制定し、全国範囲で系統的に試行作業を開始した。
1996年11月税務代理の試行作業を総括した上で、人事部、国家税務総局は共同で「注冊(登録)税務師資格制度暫定規定」を発布した。 税務代理業界は税務師資格登録制度を実施し、注冊税務師は正規の国家の専門業の技術者として国家の管轄範囲で許可された。
このようにして、税務代理業は国家認可の社会仲介サービス業として新たな発展段階を迎えてきたといえる。
2.日本の税理士制度
わが国の税理士制度は昭和17年(1942年)2月に、税務代理士法として発足した。
背景は前年に太平洋戦争が勃発し、戦時下の財政需要の増加と必然的に増税措置の対応として税務行政の運営上税務官庁の補助機関と考えていたことが、
懸案であった税務代理士法の制定を政府の喫緊の要務との提案要旨に汲み取れる。
業務は、所得税等に対し他人の委嘱により、税務官庁に提出すべき書類を作成し又は審査の請求、
訴願その他の事項(行政訴訟を除く)につき代理をなし若しくは相談に応ずることを業とする〈1条〉税務代理士の資格付与は、大蔵大臣の許可制になっていた。
戦後、昭和24年(1949年)シャウプ勧告、「税務代理士の資格試験については租税法規並びに租税及び経理の手続と方法のより完全な知識をためすべきである」、
により昭和26年(1951年)発展的に税理士法が制定された。
その後社会経済の発展に即応すべく業界の積極的な運動により数次の改正を経て現在の税理士制度へと発展してきた。
3.中国の注冊税務師制度
中国の注冊税務師制度は、社会主義計画経済体制から社会主義市場経済体制への質的転換をはかる組織的改革の必然性から生まれたものである。
従って、中国国家の税収徴収の管理体制下に適応するため国家税務総局の監督下に置かれている。
このことから、その業務は
- 税務登記、変更及び登記の抹消手続き、
- 領収書の購入手続き、
- 税務申告及び源泉徴収報告の手続き、
- 税金納付及び税務還付申請の手続き、
- 税務に関する書類の作成、
- 納税事情の審査、
- 納税者の帳簿の設置と記帳業務、
- 税務に関するコンサルタント及び税務顧問の就任、
- 税務行政の再議及び税務行政訴訟の申請、
- 国家税務総局に定められたその他の業務となっている。
しかし、WTO加盟により、輸出の増加、外資規制の緩和等による中国経済の発展と国際的協調関係の重視政策などから、注冊税務師の役割も変わってくるものと思われる。
「WTO加盟後の税務師協会も納税者権利擁護の面で新たな取り組みが必要」と言った、中国税務諮詢協会副会長の趙懐坦さんの言葉が印象的であった。